銀の指輪 −聖夜の贈り物−


「…………」
彼は固く沈黙を守ったまま、先程からずっとそこにいた。
微動だにせず、じっと空を見詰めている。
「あ、いたいたっ」
はふはふ……という、独特の荒い息と共に、少女の声が響いた。
同時に目の冴える様な青色の服を纏った少女が、彼の隣に立つ。
いつものように、ひょいと、彼の顔を覗き込んで、彼女は不安げな表情になった。
「スコール?駄目じゃない、一人でパーティ抜け出したりして」
いつもなら、無愛想だけれども声をかければ、彼はこっちを見てくれる。
無表情の様で、実はそうでない、ちょっとはにかんだような顔で……。
けれど、今、彼は……なにやら難しい表情で、睨む様にして夜空を見ているだけだ。
「ねぇ。スコールってば」
少女が彼の腕を引くよりも早く、彼女の足元にいたセーブルの毛並みの犬が彼にじゃれついた。
「っ?!」
いきなり自分にかかってきた、かなりの重量に彼はバランスを崩す。
それも……いつもならば、ありえない事だ。
「アンジェロ……」
抑揚のない声で、地面に尻餅をついた彼は呟いた。
傷のある額に手をあてて、小さく溜め息をついている。
「何してたの?スコール」
彼の前にかがみ込んで、小首を傾げながら彼女が訊いた。
「別に……」
無愛想に、彼が言う。
「ふぅん?」
彼女は黙ってじーっと彼を見つめた。
不意に、彼が彼女に手を伸ばす。
「……?」
「指輪を、返してくれないか?」
「指輪?」
唐突なその言葉に、彼女はきょとんとして首を傾げた。
「指輪だよ。貸したままの」
彼の指先が、彼女の胸元に銀の鎖で繋がれている銀の指輪をさししめす。
「どうして?」
自分の隣にちょん……とお座りをした、愛犬の首に抱き付きながら、問う。
「…………」
彼は、説明する言葉を持たないらしく、ただ黙ったまま彼女を見つめていた。
「わたし、何かしたかな?」
縋るような真摯な瞳で、なおも彼女は問う。
「いや……」
彼は短く否定して、首を左右に動かした。
「だったら、どうして?」
泣き出しそうに、細い少女の声。
彼は、困惑の表情を浮かべ、僅かに唇をまげた。
「大きいだろう。あんたが持っていても仕方が無い」
「……スコール?」
「…………」
少女は軽く、唇を噛みしめた。
そして、銀の鎖をはずして指輪を抜き取ると、叩き付けるように彼の手に渡す。
そのまま、無言で立ちあがろうとするのを、彼の手が引き止めた。
ぐっと腕を引かれて、彼の足の間に倒れ込むように、膝をつく。
「まだ、用は済んでいない」
先程よりもずっと、抑揚の無い声で、彼はぽつりと呟いた。
「なによ?」
今にも涙が出てきそうなのに、長い間ここにいたくないのに。
そんな思いを込めて、彼を睨み付ける。
「…………」
けれども、彼はやっぱり黙り込んだままで、彼女の左手をぐいと掴んだ。
「スコール?」
問答無用で、掴んだ彼女の左薬指に銀の指輪をはめる。
「え……?」
それは、今しがた彼女が返した指輪と同じデザインのものだった。
呆気に取られてぼんやりしている彼女の耳に、小さな呟きが届く。
「ゼルに……手伝ってもらいながら作ったんだ」
「……ありがとう……」
彼の首に両腕を回して、抱き付きながら彼女が囁く。
きゅぅんと鼻を鳴らして、愛犬が去っていくのがわかった。
「ありがと……」
何度も、何度もそう囁く。
ぎこちなく、彼の手が彼女の背に回された。



やがて、2つの影は、月明かりの許で1つに重なる。
それは、1年に1度の聖なる夜の事…………。


(END)

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