遠く海の果てを見つめる瞳で…


辺り一面が紅に染まる草原を、2つの人影を乗せたチョコボが疾り抜ける。
振り落とされないように、前に乗る男の背にしがみついていた黒髪の娘が、
ふと、我に返ったように辺りを見回した。
「・・・・・ねぇ・・・・・」
しがみつく力をわずかにゆるめ、金の髪の男の服を軽く引っ張る。
「・・・・・ん?」
男はチョコボを止めて、振り返った。
「しっかりつかまってなきゃ、危ないっていったろ?」
どことなく、人をくったような軽い口調である。
「でも・・・」
口ごもりながら、黒髪の少女は彼から視線を逸らした。
「みせたいものって、まだ遠いところにあるの?」
そろそろ、帰らないと。
そんな思いを込めて、彼女はそう問う。
「オレ、そんなこといったっけ?」
とぼけたような顔で、しらばっくれてみせてから彼はひょいっとチョコボから飛び降りた。
「ジタン!」
眉をつりあげる彼女に、ジタンはおどけたように肩をすくめ、
「あれ〜。おこっちゃった?」
更におどけた口調で、そう続ける。
が、彼女がツンと顔を背けてしまい、気まずそうに頭をかきながら言い直した。
「いや、本当は特に見せたいものなんてなかったんだ。
だけどさ、そうでも言わないとダガー一緒に来てくれなそうだったからさ」
あっけらかんと言い放つジタンに、ガーネットはわずかに声を荒げる。
「あたりまえでしょう!
だって、みんなせっかく、パーティの準備をしてくれてるのよ?
あの、サラマンダーだって・・・!」
するとジタンは何を思ったのか、まだまだ文句を言いつづけそうな彼女を、軽々と抱き上げた。
頬を朱に染めるガーネットに笑いかけてから、そっと地に降ろす。
「ヤツら気が利かないからな。
こうやって、ダガーと2人でゆっくり話したかったんだよ」
「ジタン・・・」
優しく微笑むジタンを見上げて、ガーネットは眼を細めた。
けれど、次の瞬間泣き出しそうな表情になって、彼の胸に華奢な拳を叩き付ける。
「あなたって人は、いつもいつも自分勝手なんだから!!」
「・・・・・」
それに対しては何も言えず、ジタンはただ黙っていた。
「ごめん」
ポツリと呟くと、ガーネットは唇をかみしめ、小刻みに首を振る。
文句は言えない。
己の信じた道を進むのがジタンという人なのだ。
自分にはなかった、そんな部分に強く魅かれたのも事実なのだから・・・。
「もう、逢えないかと思ったの・・・」
俯いて、風にさらわれそうな、そんな小さな声でそう呟く。
「あなたに、もう、二度と逢えないのかと。
全部、私の都合のいい夢だったのかもしれないとか、
たくさん、そんなこと、考えて・・・」
「ダガー・・・」
ジタンは形容しがたい表情で、唇をかみしめた。
「戻ってくるっていったろ?」
「信じてないわけじゃなかった。でも、・・・どれだけ・・・・・」
ガーネットの頬を透明な雫がこぼれ落ちていく・・・。
不意に腕をのばし、ジタンはガーネットを抱きしめた。
彼女は突然のことに、身を竦ませたまま立ち尽くしている。
「いろいろあったけどさ、
今、オレとダガーはこうしてここにいるんだからさ」
ダガーの背をあやすように軽くたたき、ジタンは微かに笑った。
微かに伝わってくる互いの鼓動とぬくもりが切ないくらいに嬉しくて、ガーネットは彼の胸に頬を押しつける。
言葉もなく、ただ、しばらくの間2人はそうしていた。

「ところでさ」
ふと思い付いたようにジタンがガーネットの顔を覗き込む。
なあに?と小首を傾げる彼女に、ジタンはニヤリと笑いつつ言葉を紡いだ。
「新婚旅行ってどこに行こうか?」
「・・・!?」
眼を見開いて、ガーネットは彼を突き放す。
「な・・・、突然何を・・・」
「え〜?だってオレ達ってば、もうとっくにケッコンしちゃってるわけだし〜」
「そ、それはっ」
あのときの成り行きでしょう?
そう声を荒げるガーネットを見て、ジタンはまぶしそうに眼を細めた。
「なんだよ。さっきはあんなに積極的だったのに・・・。
ダガーから、あつぅ〜い抱擁してくれたのに・・・」
残念そうに、拗ねたように呟くジタンの姿はどこか笑いを誘う。
ガーネットは吹き出しそうになるのをこらえて、ツンっとそっぽを向いてみせた。
「さ、もう城にもどりましょ。
みんなも待ってるし・・・・・。それに・・・・」
(これからは、いつでもはなせるものね・・・)
口には出さずそう考えて、ガーネットは頬を染める。
「ふ〜ん・・・?」
そんな彼女をちらりと横目でみやるジタンのしっぽが不規則にゆらゆら揺れていた。
なにか企んでいそうな声音に、ガーネットが顔を上げた瞬間。
「・・・っ!?」
ジタンがすばやく身をかがめ、ガーネットの頬に軽く口づけた。
「そんじゃ、戻ろうか」
顔を真っ赤にして棒立ちになっているガーネットをチョコボの背に抱き上げて、自らもチョコボに乗り込む。
「しっかりつかまってろよ」
いつもの調子で、ジタンが言った。
「うん・・・」
ジタンの背にしがみつきながら、ガーネットが囁く。
「・・・・・帰って来てくれて・・・・・ありがとう」
それが聞こえたのか、否か。
ジタンは前方を見つめたまま、微かに優しく微笑んでいた。


これから先、きっといろんなことがあるだろう。
ダガーだって、アレクサンドリアのお姫様なわけだしな。
いくら、スタイナーとベアトリクスが認めてくれたってさ。
ま、いろいろとね・・・。
でも、今は。
そういう、面倒なことや、難しいことを考えたくない。
ただ、こうしていたいよ。
・・・ガーネット。
初めて、出逢ったときには、
遠く海の向こうを見ていた君の瞳が、今はオレを見てくれてる。
今のオレには、それだけで充分なんだ。
たとえ、この先に何が待ち受けていてもさ。
オレのいつか帰る場所に君がいてくれるなら、それでいいんだ。


草原を照らす紅の光が、いつしか美しい藍へと色を変えている・・・・・。

(FIN)

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