運命という名の歪んだ月


ねぇ。
君は決して認めたくないだろうけれど・・・。
まぎれもなく、僕は君の兄なんだよ。
この僕に流れるものと。
同じ、血が。
君には流れている。
そう・・・。
・・・・・・残酷なまでに、同じ血が、ね。



木の根本に身をもたせかけた、満身創痍の青年が消え入りそうな声でそう呟いていた。
そのすぐ隣にペタンと座り込んでいる少年は、それを聞いているのか否かふさふさとした尻尾を揺らし閉ざされた空を見上げている。
「あんま、しゃべんなよ」
沈黙が続いた後、少年は誰にともなくポツリと言った。
しかし、今ここには彼と、青年の2人しかいないのだ。
独り言でない限り、必然的に青年に語り掛けたことになる。
イーファの樹の最深部。
暴走し、荒れ狂う根からかろうじて逃れ、ここに閉じ込められてからいかほどの時がたったろう。
時間の経過すらも、まともに感じられないほど2人は疲れきっていた。
「・・・・・・・・・」
少年にいわれた通り、青年は黙り込んだ。
彼は、少年を「弟」だと言うが、それにしては2人の容貌はあまりに似ていない。
「・・・・・・・・・・認めたくないなんて、思ってない」
小声で、少年が呟いた。
「なんだって?」
わずかに上半身を浮かせ、青年が問う。
その様子に、少年は怒ったような表情を浮かべた。
「おとなしく、寝てろっていってんだろ」
「ああ、けれど、今・・・・なんて・・・」
戸惑うように、視線を揺らし、青年がそう続ける。
「認めたくないなんて、思ってないって言ったんだ」
今度ははっきりと、聞こえるように少年が言った。
「オレとおまえには同じ血が流れてる。
同じ場所で、同じ者によって、
同じように、造られた・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・」
痛みに耐えるように、青年は唇をきつくかみしめる。
「ま、育った環境は、違うけどな」
そんな青年を気遣うように横目で見ながら、少年は軽い口調でそう言葉を続けた。
「・・・・・・・・クジャ、おまえには」
ふいっと視線を反らし、少年はわずかに頬を上気させる。
「礼を言わなくちゃいけないと、思っていたんだ」
「礼・・・・・・?」
唐突に、思いもよらぬ単語を聞いて、青年は思わず眼を見開いた。
「なぜだっ?!
僕は、君に恨まれはしても、礼を言われることなんてしていない」
混乱して、声を荒げる青年に、少年は澄んだ碧眼を向ける。
「・・・・・・・・・オレを、ガイアに捨ててくれた」
青年は、その清廉なまなざしに射すくめられたように身体を硬直させた。
「そんなこと。僕の、ただの、身勝手じゃないか」
「けれど、おまえがオレを捨ててくれたからこそ。
だからこそ、今、オレ達ここにいるんだろ?」
「・・・・・ジタン・・・・・」
何かを言おうとして、少年の名を読んでから、彼は自嘲的に唇を歪める。
「まったく、君は次に何を言い出すのか。
何をしでかすのか、わかったものじゃないね」
そして、平静な表情に戻って吐き出されたのはそんなことばだった。
皮肉げなその響きにも、少年はどこか誇らしげに胸を反らす。
「オレはオレのやりたいことを。信じたことを貫く主義なんだよ」
何度となく聞かされたそのセリフに、青年は微かな笑みを浮かべた。
「・・・・・・・本当に君といると、僕のペースが乱されるよ」
「そうか?」
「ああ。おかげで、らしくないことをしてしまいそうだ」
「なんだよ?」
青年が、何かを企んでいるように笑うので、少年はどことなく居心地が悪そうに首を傾げる。
「・・・ジタン」
一瞬、青年の瞳がいとおしげに細められた。
「礼を言わなければならないのは、僕の方なんだよ」
「おまえが?オレに?なんでだよ」
身を乗り出すようにして、少年が訊ねる。
心底不思議そうに見開かれた瞳を見て、青年は芝居がかったため息をついた。
「君はやっぱり、自分がしていることをわかっていないんだね」
そんな風にいわれて、少年は自分が何か悪いことをしたのかと思ってしまう。
落ち着きなく、尻尾を揺らしながら眉を寄せて青年を見つめた。
「君が・・・、君と出会って、戦って・・・。
その中で、僕は、・・・僕の存在を感じることが出来た。
それまでは、自分で自分の存在を感じることが出来なかったんだ。
おかしいだろう?僕は確かにここにいて、動いているのに」
「クジャ・・・」
「人間として生きている自分を、誰かに認めてほしかった」
自嘲的に笑んだまま、青年は少年の瞳を見つめかえす。
「おまえ・・・・・」
少年は思わず、手を伸ばした。
そして、青年の手をしっかりと握りしめる。
「オレが、そばにいてやるから」
そんな、言葉を呟きながら・・・。
「ひとりじゃ、ないよ。クジャ」
「寂しいなんて・・・・・、僕は・・・一言も言ってないよ?」
「言わなくたって、わかるさ・・・。おまえの眼みたら、わかる」
やりきれないような表情で、少年が呟いた。
「・・・・・・・・そうか」
しばらく、視線を彷徨わせてから、青年は小さく一つ息を吐く。
「わかって、くれる・・・んだね」
もはや、意地をはる気も失せたのかどうか、青年も己の手を握る少年の手を握り返した。

暖かなぬくもり

それこそが、長いこと自分が求めていたものではなかったか。


「クジャ?」
不意に、黙り込んだ青年を心配そうに少年が覗き込む。
「大丈夫だよ。ただ、少し・・・。疲れたんだ・・・少し・・・眠りたい・・・・・・・・」
「・・・・・ああ。あんま、無理すんじゃねーぞ」
返される、暖かな言葉。
無償の優しさと、信頼。
(気が付けば、こんなにも簡単な・・・・・)
言葉には出さず、そう呟いて青年はゆっくりと、眼を閉じた。


君が、教えてくれたんだよ。
破壊することでしか、存在を主張できなかった僕に。
僕自身の存在を。
誰かを守ることを。
誰かを愛することを。
生命の意味を。
紡がれていく、生命の歌を。
そして・・・・・、
やがては、僕も還ってゆく、その場所さえも・・・。

全部、君が、教えてくれたんだよ。
・・・・・・・・・・・・ジタン。



まるで2人を守るような、穏やかな空気に包まれて・・・・・。


(FIN)

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