だって子供だもん! −序章−


「ほらほら、ジタンはやくーっ!!」
藍色の髪の少女が明るい満面の笑顔を振りまきながら大きく手をふりまわしていた。
道行く人が何事かと振り返るのを気にもとめずに・・・。
「へいへい・・・」
彼女がその笑顔を向ける先には、尻尾の生えた金髪の少年が歩いていた。
疲れきった表情で、やる気のなさそうな適当な返事をしている。
いつもは豊かな感情表現と共に動く尻尾も、てれんとして下に下がっていた。
そんなジタンを見て、少女・・・エーコはむっとしたように頬を膨らませる。
「ちょっとぉ!!ジタンってばさっきからため息ばっかついちゃって!!
今日は一日エーコにつきあってくれるって約束したでしょう?」
「だから、こうやって一緒に歩いてんだろ」
と、言いたいのをどうにか飲み込んで、ジタンは大きくひとつため息をついた。
「ジタンはいつもダガーにべったりなんだから、たまにはエーコに一日付き合ってよね!」
そんな風に詰め寄られて、思わず頷いてしまったのが運のツキだったのだ。
おかげで朝からずっと、元気いっぱいのエーコにふりまわされている。
今日がちょうど、市の立つ日だったことも災難の一つなのだが・・・。
あれがみたいなっ!
今度は、あっち、みにいこっ。
おなかすいちゃった。
・・・何度、この言葉を聞いただろうか・・・。
そんなことを考えていたら、頭痛がしてきて、ジタンは大袈裟に肩を落とした。
「ジタンっ!!」
突然、目の前で大声を出されて、ジタンは反射的に姿勢を正す。
「な、んだよ?」
「あのねぇっ?!」
エーコは腰に小さな手をあてて、ジタンをしたから覗き込んだ。
「そりゃあね、ダガーといたいのはわかるけどっ!
今は、エーコと一緒なんだから、あんまりぼーっとしてないでよ!!
レディーに対して失礼だわっ!」
ね?モグ?
ひとしきり不満をぶちまけた後、胸元のモグにそう同意を求める。
「・・・」
ジタンはやれやれ・・・というように肩をすくめ、エーコの頭をぐりぐりと少し乱暴に撫ぜた。
彼はエーコの気持ちに、爪の先ほども気づいていないのだ。
もっとも・・・当のエーコだって、いくら少しませているとは言えまだ6歳。
この気持ちが憧れなのか、恋なのか、判断のつきかねる微妙な年頃だ。
けれど、エーコは必死だった。
ジタンとダガーがお互いに好きあってるのには、感づいている。
当事者達は、まだ気づいていないようなのだが、周りで見ている者達には、バレバレだ。だから、当人達が気づく前にどうにかしなくてはならないのだ。
そして、どうにか彼をデートに連れ出すことには成功したのだが・・・。
当のジタンが、子供のお守り程度にしか思っていないのが嫌でも伝わってくる。
「なぁ・・・」
頬を赤くして膨れていると、ジタンが困ったように声をかけてきた。
「ビビときたほうが楽しかったんじゃないのか?」
・・・子供同士・・・。
なんだか、言外にそう言われているような気がして、エーコは思いっきりジタンを睨み付ける。
「子供扱いしないでっ」
不満そうに唇をとがらせて、そう抗議した彼女の視界の隅に、なんだかキラキラとしたものがひっかかった。
好奇心にかられて、エーコはその方をみやる。
「あ・・・」
視線を向けた先には、色とりどりの石があった。
「きれーいっ」
「あ、おい。エーコ、まてよ」
すぐさまそこへ、走り出すエーコを追いかけながら、ジタンはこっそりと呟く。
「思いっきり、子供じゃないか・・・」
そんなことをいわれてるとは知らずに、エーコはその店先に座り込んだ。
がらくたとも言える、色のついた石がところせましと並べられた露店の主は、エーコをみてニカッと笑ってみせる。
「なにか、さがしてるのかい?」
「うんん。ただ、きれいだなって」
エーコはたくさんある石の中で、虹色に光る石を手に取った。
「それはな、幸運を呼ぶ石なんだよ」
うさんくさいその言葉も、その石を見つめていると本当に思えてくる。
「ジタン!これ、ほしいな」
エーコはやっと追いついてきたジタンに唐突にそう言った。
「な、なんだよ、急に・・・。しかも、自分で買えば・・・」
「ほしいったら、ほしいの!!そんでもって、ジタンに買って欲しいんだから!!」
「いくら?」
てこでも、動きそうにないエーコをみて、ジタンは露店の主に尋ねる。
(高かったら、エーコをひっぱってかえろう)
などと思いながら・・・。
「1000ギルだよ」
幸運を呼ぶにしては安い値段がかえってきた。
(そんくらいだったら、買ってやってもいいか)
ごそごそとポケットを探り、ジタンはギルを取り出す。
「じゃあ、それ、くれよ」
それを聞いてエーコはぱぁっと顔を輝かせた。
店主から、虹色の石を受け取ってジタンはエーコにそれを手渡す。
「ありがとう!!」
声を弾ませてそれを受け取ると、エーコは満面の笑顔になった。
あまりに嬉しそうなその様子に、ジタンも表情をほころばせる。
(これが、願いをかなえてくれる石だったらいいのに)
自分の頭を撫でている、ジタンを上目遣いに見上げながらエーコは思った。
(エーコがダガーみたいに大人で、綺麗で・・・)
子供扱いされているのは解っているが、髪をくしゃくしゃっとかきまわすジタンの手がエーコは大好きなのだ。
(そしたら、ジタンはエーコを好きになってくれるのかなぁ・・・)
そんなことを、ふと考える。
(それで、ダガーがスタイナーみたいなひとでさ。
そしたら、ライバルもいなくて、エーコがジタンの一番になれる・・・?)
スタイナーみたいになったダガーを想像して、エーコはクスクスと笑い出した。
「エーコ?」
怪訝そうに、眉を寄せてジタンがエーコを覗き込んだ・・・その瞬間。
エーコの手の中に握られた石が、7色の光を振りまいた。
「きゃぁっ」
突然のことに驚いて、エーコが左手で己の眼を覆う。
「な・・・なにっ?」
ふわりと身体が浮かびあがり、エーコは息をのんだ。
「エーコ!!」
咄嗟に手を伸ばしたジタンがエーコの細い腕をつかんだその時。
7色の石がひときわ強く光り輝やいた。
まるで、光の渦のようなその光景に、どうしたことか通行人の振りかえる様子はない。
「うわぁぁっ?!」
そのうちに、エーコをつかんだジタンの身体も宙に浮いた。
「ど、どうなってるんだよっ!」
ジタンは柳眉をつり上げて、石を売っていた店主を睨み付ける。
・・・・・はずだった。
「?!」
しかし、そこには誰もいなかったのである。
店主どころか、露店までもが綺麗さっぱり消えていたのだ。
「ど・・・どういうこと・・・だよ」
彼が呆然と呟くうちに、7色の光はますます強まり2人の姿を包み込んだ。
「わ、わかんない!!」
どさくさに紛れて、ジタンにしっかりしがみつきながらエーコが答える。
そして、彼らに答えを与えないまま、光の渦は2人を飲み込んだ。

やがて光の洪水がおさまった後には、市の雑踏が戻ってくる。
まるで、何事もなかったかのように・・・。

そう。
2人だけが、その場から姿を消していたのだ・・・・・。

(つづく)

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