だって子供だもん! −第1章−


「あれぇ〜・・・?」
きょとんとして、彼女は辺りを見回した。
確か、もの凄い力に引っ張られて宙に浮いていたはずなのだ。
けれど、今。
自分は何事もなかったかのように地面に立っていた。
こわごわと、己の手の中にある虹色の石を覗き込む。
あれほどの光を放っていた石は、今はただ静かに煌くだけだ。
「・・・・・・・どうしちゃったんだろう」
呟いて、同意を求めようと彼女は隣にいるであろう人を振り仰いだ。
「!?」
しかし、そこには誰の姿もない。
「・・・・・・なんでっ?!」
急に心細くなった彼女は、慌てて懐を覗き込んだ。
「モグまで・・・!!どこいっちゃったのよぉ・・・」
市の雑踏が、ひどく遠くに聞こえる。
「ひどいわっ。ふたりとも!!エーコ一人おいて、さっさと行っちゃうなんて!!」
勝手にそういう結論に至り、エーコはぷぅ〜と頬を膨らませた。
「そっちが、その気ならいいもんね。
エーコだって、ジタンのことなんて、知らないんだからっ!!」
ぷりぷり怒りながら、彼女は一人、市を歩き出す。
「あれ・・・?」
怒りに任せてずんずんと、進んでいた彼女だが、何かに気づいたらしい。
ふと、足を止め、いぶかしげに辺りをキョロキョロと見回した。
「どうしたのかしら・・・」
大きな瞳を更に大きく見開いて、小さく小首を傾げる。
「何か、おかしいような気が・・・・・」
一人、呟きながら彼女は微かに眉をよせた。
確か、あの時・・・。
浮かび上がったエーコの腕を、ジタンがつかんでくれたはずだ。
そして、ジタンも宙に浮かんだ。
彼は、確か石を買った露店の方に向かって、何かを怒鳴っていて。
エーコがそちらをみたとき、露店の主はいなかった。
露店ごと、姿を消していたようにおもえる。
そのあと、何かに引き込まれるように身体が引っ張られて。
視界が真っ白になって。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
エーコは、傾けていた首を起こし、もう一度辺りを見回した。
「やっぱり、変だわ」
しばらくそうした後に確信を持ってそう呟く。
視界が、真っ白になった後・・・。
市の様子も見えなくなった。
そして、明らかに市の空気とは違うものを感じたのだ。
「じゃあ、ここは、どこよ」
少し、青ざめた顔でエーコは呟いた。
行き交う人の波。
あふれるような露店の品物。
にぎやかな、市の華やいだ空気。
全部、偽りのものとは、おもえないのに。
「ジタン・・・モグ・・・」
ただひとり、まるで知らない場所に放り出されたような。
そんな、不安感が彼女の胸を締め付けた。
よくよく見てみれば、露店も、何もかも先ほどまでとは微妙に異なっているのだ。
そして、何よりも肌に感じる雰囲気が違う。
涙があふれてきそうで、エーコはきつく唇をかみしめた。
それでも、目尻にじわりとにじむものがある。
「・・・・・くぅっ・・・・・」
こらえきれずに、鳴咽をもらしたその時。
ぽんっと肩を叩かれた。
「・・・?」
びくっと、身を竦ませながらも、エーコはそちらに振り返る。
「・・・・・ジタンっ」
自分の肩を叩いたのが、探していたその人なのだと。
わかったその瞬間。
こらえていた涙が堰を切ったように溢れ出した。
「おいおい、どうしたんだよ」
大声で、泣き喚きながらジタンにしがみついくと、彼は呆れたような声を出してはいるものの、なだめるように優しくエーコを抱きしめてくれる。
ぽんぽん・・・と、あやすように背を叩く手が、なんだか優しすぎるような気もしたが、嬉しさの方が勝ってあまり気にはならなかった。

気の済むまで泣き喚いて、涙がとまってからエーコは自分の懐を覗き込んだ。
「あのね、ジタン。モグがいなくなっちゃったの。
一緒に探してくれる?」
「ん〜?モグがフラフラいなくなるなんて、いつものことだろ?
それより、せっかく来たんだから、市をまわってこうぜ」
「うん・・・。でも・・・」
「なぁに。心配はいらないさ。もし、帰るまでに見つからなかったら探せばいいだろ?」
「うんっ。そうだね」
にっこり笑って、エーコはジタンの手を握った。
もう、はぐれたくない。と思ったのも事実だが、多少どさくさに紛れたのも事実である。
(あれぇ・・・?)
ジタンに手をひかれて歩きながら、エーコは首をかしげた。
(さっき、なんか、考えていたような気がするんだけど・・・なんだったかしら・・・・・・?)
心の奥に深く突き刺さるような。
大切なことだったのに。
(まぁ・・・・・いっか。必要になったら思い出すと思うし。
今は、せっかくジタンがその気になってくれたんだから、楽しまなくっちゃね!)
しかし、エーコは前向きとも、おおざっぱともとれるそんな考えで、心の奥の靄を払拭した。
「ジタンっ。エーコあれが、たべたい!」
そして、にぎわう市の雑踏へと、ジタンと2人・・・足を踏み入れたのである。


(つづく)

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