だって子供だもん! −第4章−


「…どうしよう…」
宿屋を飛び出したエーコは、扉の前で呆然としていた。
飛び出したはいいが、これからどうして良いのか全くわからない。
一人、道端に突っ立っていると、何だか涙がにじんできた。
いくら、普段気丈に振る舞ってはいても、彼女はまだ6歳の幼い少女なのだ。
たった独りで妙なところにほうり込まれれば、不安にだってなる。
「ジタン〜……。モグぅ〜……。
どこに、行っちゃったのよぉう〜」
それでも、必死に涙を堪えながら。
エーコは頼りなげなか細い声を、喉の奥から絞り出した。
そして、宿屋の前を離れ再び市に賑わう人混みの方へと歩き出す。
「モグったら……エーコの傍を離れちゃ駄目よって言ったでしょうっ!
いつもいつも……いつも、エーコをヒトリにして……」
腹ただしげに、エーコが呟やいた。
けれども、その勢いも長くは続かない。
「独りに……、しない…でぇ……」
歩みを止め、エーコは俯いた。
その足元の地面に、彼女から零れ落ちる雫が点々と染みをつくる。
「もぉ…ひとりは……いやだよぉ……」
堪えようとすればするほど、涙はあふれて止まらない。
「…くぅっ……」
両手をきつく握りしめて、エーコは右手に何かを掴んでいる事に気付いた。
恐らく、全ての発端であろう虹色に煌く石だ。
ぽろぽろと涙をこぼしながら、エーコはそれを見つめる。
それを売っていた露店の主を思い出す。
悪い感じのする人では、決してなかった。
むしろ、なんだか心地の良いものを感じたのに…。
「あの、おじさんを……探さなきゃ」
まだ涙は止まっていなかったが、エーコはそう言って再び歩き出した。
虹色の石が輝き出すと同時に、消えてしまった店主。
彼は、少なくとも何かを知っているハズだと思う。
「帰らなきゃ……」
ちょっとづつ、何かがおかしいこの世界じゃなくて。
エーコがいるべき場所に。
みんながいる場所に。
そうやって気を奮い立たせると、彼女は少し乱暴に涙をぬぐった。

「……?」
しばらく露店の主を探して歩いていると、何やら前方の方が騒がしくなった。
「何か、あったのかなぁ?」
その、あまりの騒がしさに、エーコはそちらを目指して歩き出す。
「ねぇねぇっ、少しくらい、いいじゃんってば」
喧騒の中、そんなセリフが聞きなれた声で、彼女の耳に飛び込んできた。
「しつこいっていってるでしょっ!」
心底迷惑そうな女の声も聞こえる。
そこでは、最近すっかり見慣れてしまった光景が繰り広げられている模様だった。
呆れ果てたエーコは、大きく一つ溜め息をついた。
人の垣根の向こうにいるであろう彼を、見たい気もする。
けれども、見たくないような気もする……。
(とにかく、今はモグを探さないとね)
エーコは自分に言い聞かせるように、心の中で呟くと身を翻しかけた。
「おっ!?」
その時、騒ぎを起こしている当人が立ち去ろうとしている小さな影に気付き、
「エーコじゃないか?」
人を掻き分けて素早く彼女に近づいてくる。
エーコは仕方なく足を止め振り返った。
余談だが、彼の注意がそれて、いわゆるナンパをされていた女性はほっと息をついている。
その隣にたつ、ナンパ男ともめていた男性も同様だ。
(カップルに声をかけるなんて、見境いってものがないのかしらっ)
そんな思いを込めて彼を睨み付けると、彼……ジタンは悪びれた様子のない笑顔をみせた。

(つづく)

←Back Next→

−ゲーム小説の部屋に戻る−


SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送