だって子供だもん! −第5章−


「よぉ、どこいってたんだよ。探したんだぜ?」
「…………」
エーコは黙り込んで、ただジタンを上目使いに睨み付ける。
元とは言えば、彼がへらへらとエーコの意見を聞き流していたのが原因なのだ。
「どうしたんだよ」
黙り込んだエーコが怒っているらしいことを悟り、ジタンは軽く身をかがめる。
「…………」
その、心配そうな瞳が嬉しくて、エーコは思わず彼に飛びつきたくなった。
けれども、意地でそれを堪える。
「全くさぁ、変な光に包まれたと思ったら、一人で、市のど真ん中にたっててさ。
一緒にいたはずだったエーコはいないし……。
しばらく、探したんだけど、見つからないから宿屋に戻ったらさぁ……」
「……っ!?」
そこまでを聞いて、エーコは目を見開いた。
「見つからないって、さっき、ジタン、エーコと一緒に歩いてたじゃない!」
「はぁ?」
うわずった声でそう言ったエーコの顔をまじまじと見詰め、ジタンは心底不思議そうに眉を寄せる。
「何いってんだよ。
探して、見つからないからひょっとして宿屋に行ったのかと思ってさ。
宿に戻って、ひどい目にあったぜ」
……つまり、アレを見たわけだ。
ジタンは、揺らしていたふさふさの尻尾をだらりと下げ、大袈裟に肩をすくめてみせた。
「あんなん、見るもんじゃないぜ……」
心の底から、ぼやいているのがわかる。
「スタイナーのコト?」
悪気なく訊いたエーコの言葉に、彼は更なるダメージを受けたようだった。
「みたのか……。
いや、別にオレはなぁ。ダガーがどんな姿だって、構わないんだけどなぁ。
さすがに、アレは…アレはないと思うだろう?」
なぁ?
と、同意を求められて、エーコは曖昧に笑う。
(本当に、ジタンはエーコに会ってないみたい…)
ならば、先程の「彼」は何者だというのか……。
エーコは何気なくジタンの手を握った。
暖かくて、ほっとする。
先程みたいな、妙な違和感はない。
「あのね、ジタン」
エーコの言葉にならない不安を感じたのか、ジタンは小さなその手をぎゅぅっと握り返した。
「モグがいなくなっちゃったの」
先程の「彼」に対する言葉と同じモノを投げかける。
「モグが…?急いで探したほうがいいな」
ジタンは明らかに先程の「彼」とは異なる反応を見せた。
眉を寄せて、エーコの顔を覗き込む。
「……気付いてるか、エーコ」
「ココがおかしいってこと?」
小首を傾げてそう訊ねたエーコに頷いてみせ、ジタンは大きく一つ溜め息をついた。「だいたいさ、ダガーをみた時に気付くべきだったんだよな。
今、ダガーは言葉を失ってるはずなのに、ココではちゃんと話してた」
「しかも、スタイナーだし?」
真剣な表情で呟くジタンに、意地悪くそう問い掛ける。
「だから、ソレはもう言わないでくれって……」
ジタンは再び尻尾を下げ、げんなりとうなだれた。
そんな彼の様子を見ながら、確かにそうだとエーコは思う。
先程は、変なところに迷い込んでしまったと気が動転していたのと、
ダガーがスタイナーの容姿をしているショックとでそこまで、思い至らなかったのだが、確かに今、ダガーは声を失っているのだ。
「ココはどこなのかしら?」
「……さぁな」
尻尾を下げたまま、ジタンは短く答えた。
「あのオヤジなら何か知ってるかもと思って、探してみたんだけど、駄目だったよ。 どこにもいない。あの露店もないんだ」
「うん。おじさんはエーコも捜したよ」
ジタンはう〜んと唸りながら、腕組みをする。
「ねぇ、ジタンってばそんな大変な状況だってわかってるのにナンパなんかしてたの?」
半ば呆れたような声を込めて訊くと、彼はほんの少しだけ唇を笑みの形に動かしてみせた。
「じたばたしても仕方ないだろ。それで戻れるっていうんならいくらでも騒いでやるさ」
自信たっぷりとさわやかに、そんなセリフをはく。
その姿は確かに格好いいとエーコは思った。
しかし……。
「でも、別にナンパしてなくても、いいと思うんだけれど」
心に浮かんだ疑問をポツリと口に登らせてみると、
ジタンはギクリと肩をこわばらせて、不自然に乾いた笑い声をあげた。
「ははは……。エーコ、大人には大人の世界ってもんがあるんだよ。
ま、今のエーコにはわかんないかもしれないけれどな!」
わかるようなわからないような事を、乾いた笑い声のままでいってのけ、
「そんなことよりも、エーコ!アレ、もってるか?」
彼はあからさまに話題を逸らした。
「……あれ?」
「そう、あの石だよ。虹色の。露店のオヤジが幸せを呼ぶとかなんとか言ってたヤツ。」
「うん」
エーコは釈然としないものを感じながらも、握りしめていた虹色の石をジタンに見せた。
「どう考えてもこの石、胡散臭いよな……」
「エーコもそう思う」
ジタンは7色に輝くその石を、空に掲げてみる。
日の光を受け、それは様々な色形に煌く光を撒き散らした。
「でも、さっき光ったっきりなの」
「う〜ん……」
ジタンはよくよく目を凝らしてみるが、何も変ったところは見受けられない。
「ま、考えてもわからないものは、考えても仕方ないよなっ!
それよりも、モグを捜そうぜ?」
明るくそう言ってジタンは下げていた尻尾をピンとたて、石をエーコの手に戻した。
「うんっ!」
そうやって笑いかけられるだけで、何故だろう元気がわいてくる。
それが、自分がジタンを好きだからなのか、
それともジタンの笑顔が与えてくれる力なのか。
まだ、エーコにはわからない。
ただほんの少し頬を上気させて大きく頷くだけだ。
エーコは虹色の石を固く握りしめ、もう片方の手をジタンにひかれて歩き出した。


(つづく)

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