だって子供だもん! −第6章−


人混みの向こうでふさふさの尻尾が揺れた。
「っ!?」
「どうした?」
手を繋いだ少女がびくっと身を強張らせたのを感じて、ジタンが足を止める。
「ん…ううん、なんでも、ない」
エーコは大袈裟なまでに明るい笑顔を見せ、ぶんぶんと勢い良く首を横に振った。
あれは、確かに見覚えのある尻尾だった。
隣を歩くジタンのものだ。
「本当かぁ?なんかあったら、隠さないで言うんだぞ?」
彼は眉を寄せて、エーコの顔を覗き込む。
「うん」
小さく彼女が頷くと、ジタンは笑顔に戻って再び歩き出した。
手をひかれるかたちで、エーコも歩き出す。
「なぁ?どの辺にいるかわからないのか?気配とかさ」
問われて、エーコは力なく首を振った。
「わからないの。モグの気配が全然しないの。
いつもはね、捜そうと思えば大体の場所は分かるのに。
こんなことって初めてだよ……」
涙がにじんで、それを堪えるためにきゅっと唇をかみ締める。
「大丈夫、すぐに見つかるさ」
ジタンは口元だけをほころばせて、エーコの頭にぽんっと手を乗せた。
そして、そのまま少々乱暴にくしゃくしゃっと髪を撫ぜる。
一見、優しさのカケラもないように見えるが、エーコはそうされるのが好きだった。
「うん……」
手の甲で勢い良く涙を拭き取ると、ジタンを仰いで笑顔を向ける。
…………その時である。
「よぉ、どこいってたんだよ。捜したんだぞ?
人混みで、いきなり駆け出すなよ。探すのに、すげぇ時間かかっちまうだろ」
聞きなれた、声がエーコを呼び止めた。
それは、ジタンにとっては聞きなれているどころではないものだ。
「あぁんっ?!」
驚いたように目をみはり、裏返った妙な声を発して彼は振り返った。
恐々と、エーコも振り返ってみる。
「なんだ……おまえっ!?」
案の上……そこにいたのは、ジタンだった。
「俺……っ?!」
深い蒼色の眼を見開いて、ジタンが呟く。
「ジタン……」
エーコが先程の出来事を、ジタンに話そうとするより早く……。
彼が、自分に向かって声を荒げた。
「だ、誰だよ、オマエっ」
「それは、こっちのセリフだ。おまえこそ、誰なんだよ」
剣呑な表情でそう言う……後から現れたジタンには、あの強い違和感がない。
「…………ジタン」
エーコは混乱して、2人を交互に見比べた。
ゆっくりと、握りしめていたジタンの手を放す。
「エーコ?」
ジタンが……今までエーコと手を繋いでいたジタンが、怪訝そうに眉を寄せた。
「どうした?」
「2人共、本物のジタンなの?」
今にも泣き出しそうな声で、囁くよりも小さく言葉を絞り出す。
「何いってんだよ、エーコ」
後から現れたジタンが、驚いた、とでも言うように眼を見開いてみせた。
『決まってるだろ?俺が本物だよ』
2人は、同時に同じ表情でそう言い放つ。
「…………でも、ジタンはひとりだもんっ」
『だから、こいつが偽物だってっ!』
お互いを指し示し、そう言う声の調子も。
言いながら、大袈裟に肩をすくめる仕草まで。
2人の動作は寸分違わず、同じタイミングであった。
そんな場合ではないのだが、何だかおかしくてエーコは笑いを堪える。
それに気付かず、ジタン2人は互いに睨みあっていた。
『なんか、ムカツクんだよ、おまえっ!』
この状況において、ひどく低レベルにも思える争いが延々と続いていく。
辺りを行き交う人々も、同じ顔・同じ声の2人の少年が争っている姿に興味をひかれたのだろう。
次々と集まって来て、3人の周りにちょっとした人垣が出来てしまった。
流石に笑っている場合ではなくなったエーコは、恥ずかしさに頬を染めながらジタン2人の腕を掴む。
『エーコ?』
「はい、ちょっと、ごめんなさいねっ!」
キョトンとした顔まで一緒の2人を強引にひっぱり、エーコは人垣の外へと脱出を図った。


『どうしたんだよ、エーコ』
始めはおもしろかった2人同時の動作も、なれてくるとちょっと煩わしくなる。
エーコは2人に向かってずいっと指を突きつけた。
「一緒にしゃべるのやめてね。
みんな、ジタンが同じ事いって同じように動くから面白がってよってくるのよ」
『…………』
物凄い剣幕のエーコに、とりあえずジタン達は沈黙する。
エーコは自分を落ち着かせるために大きく深呼吸をして、大変なことに気付いた。
あの場から離れたい一心で、夢中で彼らを引っ張ってこの路地裏に入る過程で。
どっちが後から現れたジタンなのかわからなくなってしまったのである。
「白状しなさいっ!」
何を思ったのか……エーコは突然2人に向かってそう言った。
ジタン2人は、鳩が豆鉄砲をくらったような顔で彼女を見返してくる。
白状しようにも、主語がなかったために何を白状して良いのやらわからなかったのだ。
それに気付いたエーコは「コホン」とわざとらしく咳をして、突きつけた指を引っ込めた。
「さっき、エーコと一緒にいたジタンはどっち?」
『俺だけど?』
予想通り、そんな言葉が返ってくる。
「そんなわけないじゃないっ!一人は後から声をかけてきたんでしょっ!」
高めの声が、怒りを帯びてますます高くなっていた。
「正直に白状しなさいってばっ!」
『だから、俺だって……』
綺麗なハモリで答えてくる相手2人を下から睨み上げてから、エーコは力なく溜め息をついた。


(つづく)

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